付喪神のご縁
「それまだ現役なの?」
旅先の小さな図書館で女性に声をかけられた。
その目線の先には、私の肩から下がる長方形のケースがあった。
中身は私の愛機である二眼レフ、yashicafilxだ。
ケースを見ただけで中身を当てられると思っていなかった私は、
戸惑いつつも、「はい、修理した子ですが、まだ現役です」と答えた。
その女性は私の答えにとても嬉しそうに笑った。
健康的に焼けた肌と、短く切りそろえた白い髪のコントラストがとても印象的だった。
上品でカッコいい女性、こんな風に歳を取りたいな、そう思った。
その図書館に勤めているという女性は、父親の形見の二眼レフを持っている言った。
自分は使うことなく家に飾っているが、
もし自分が死んだときにゴミとして捨ててほしくないとも。
「良ければ、連絡先を教えてはもらえないかしら」
私はすぐに実家の住所と名前を教えた。
「付喪神って知ってる?ある日手足がポコッと生えて、
貴女の子と、うちの子が、話をするの、よく来たなって」
そんな風に話す女性がとても好きだった。
私もそうなればいいなと思った。
初めて来た街でたまたま図書館に立ち寄った私。
普段の勤務日ではないその日に所用で来ていた女性。
きっと女性のお父様が導いてくれた出逢いだと思う。
二眼レフで撮ったその街の写真を添えて、女性に手紙を書こうと思う。
いつか、私の付喪神と女性の付喪神が仲良く話をするその日まで、
このご縁を大切にしたいと思う。
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