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深翠

2021.08.10

付喪神のご縁


「それまだ現役なの?」

旅先の小さな図書館で女性に声をかけられた。

その目線の先には、私の肩から下がる長方形のケースがあった。

中身は私の愛機である二眼レフ、yashicafilxだ。


ケースを見ただけで中身を当てられると思っていなかった私は、

戸惑いつつも、「はい、修理した子ですが、まだ現役です」と答えた。

その女性は私の答えにとても嬉しそうに笑った。

健康的に焼けた肌と、短く切りそろえた白い髪のコントラストがとても印象的だった。

上品でカッコいい女性、こんな風に歳を取りたいな、そう思った。



その図書館に勤めているという女性は、父親の形見の二眼レフを持っている言った。

自分は使うことなく家に飾っているが、

もし自分が死んだときにゴミとして捨ててほしくないとも。

「良ければ、連絡先を教えてはもらえないかしら」

私はすぐに実家の住所と名前を教えた。

「付喪神って知ってる?ある日手足がポコッと生えて、

 貴女の子と、うちの子が、話をするの、よく来たなって」

そんな風に話す女性がとても好きだった。

私もそうなればいいなと思った。


初めて来た街でたまたま図書館に立ち寄った私。

普段の勤務日ではないその日に所用で来ていた女性。

きっと女性のお父様が導いてくれた出逢いだと思う。


二眼レフで撮ったその街の写真を添えて、女性に手紙を書こうと思う。

いつか、私の付喪神と女性の付喪神が仲良く話をするその日まで、

このご縁を大切にしたいと思う。

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